2015年6月アーカイブ

「補欠」役員の選任

梅雨ですね。スカッとした青空を久しく

見ていないような気がします。

湿度が高いとどうも身体のキレが悪い

今日この頃です。 

 

よく会社の定款の中で役員の任期の定めの章

に、以下のような定めがあります。

『第●条 任期満了前に退任した取締役の補欠として

、又は増員により選任された取締役の任期は前任者

又は他の在任取締役の残存期間と同一とする』

 

これは補欠または増員取締役の任期を在任中の取締役

の任期に合わせることで、任期管理をやりやすくする意図

があります。

 

「増員」取締役は、既存現任員数に追加的に選任するもので

ありますので定義として明快ですが、「補欠」取締役について

は、選任の時点で一定のルールがあります。

 

株主総会の決議で、任期中に退任する取締役の後任として選任

され、前任者の「補欠」として明示し、前任の取締役の任期を引き

継ぐことを明らかにすることが要件になります。

 

上場会社の株主総会議事録を見ていると、補欠取締役に限らず

選任される役員の任期がいつまでかを明示していますが、議事録

は勿論、召集通知の段階で上記の要件を株主に対して明らかに

しておかなければなりません。

 

私も役員変更登記の御依頼をいただいた段階で、補欠取締役の

要件を充足しているか事前に確認し、任期の満了のタイミングに

は細心の注意を払っています。

 

 

         司法書士法人高山事務所 司法書士梶原貴志

 

法人後見に思うこと

昨日、大学時代の友人が新築の建売を購入した

ので、立会に行って参りました。

友人夫婦はそれぞれ直系尊属からの住宅用取得

資金の贈与の特例を活用しつつ購入しました。

このような制度拡充も然りですが、若い世代が住宅

を安心して取得できる環境や、子育に対する手当等

、行政や立法がもっと充実していくことが、この国の

未来に繋がるように思います。

 

今日のタイトル「法人後見」ですが、成年後見制度が

創設され、我が国おいても徐々に定着してきた昨今

ですが、成年後見人には自然人(=個人)だけでは

なく、法人も就任することができます(民法843条4項)。

 

私共は司法書士法人とういう法人組織であり、またその

目的に後見業務を行うことを置いておりますから、現在

就任している案件も、すべて法人で受任しています。

 

後見事務を進めている中で感じることは、裁判所や金融機関

等の各窓口が法人後見人に対する認識が未だ成熟していない

ような印象を受けます。

 

おそらく司法書士や弁護士等所謂「専門職後見人」の就任が

個人としての類型が過去から大半を占めており、法人就任と

いう類型そのものが、近年徐々に増えてきたため、その対応

姿勢の未整備が原因にあるように思います。

 

成年後見支援信託契約の際も、法人の代表者でなければ

原則締結不可との取扱いがあったりします。それであれば

結局の所法人で受任する意味は無くなります。

法人後見のメリットは担当者が一定の事由により、後見事務

を遂行できない事象が起きても、他の担当者が代わりに遂行

可能という点が一番大きいでしょう。

 

ただ現時的には、後見事務を行っていると本人や親族、施設職員

等の関係者との継続的なやりとりについては、担当する司法書士

が行うことになり、実質的に個人で受任しているのと変わりはない

側面もあります。

 

よって、私共も法人受任する以上は、内部的な意思決定に関わらず

対外的手続や話し合いの場においても、複数の司法書士が関与して

後見事務を遂行し、個人受任にはない特性を見出していかなけれ

ばならないと強く感じております。

 

            司法書士法人高山事務所 司法書士梶原貴志

自筆証書遺言の体裁

近畿地方も梅雨入りして、昨日は午後から

雨でしたが今日は午前中には止みました。

これから雨ばかり続くと、週末の趣味のロード

バイクで走られるかが心配です。

 

依頼者の方から相続登記のお話をお伺いし

ていると、自筆証書遺言に遭遇すること

があります。

検認手続を経ていない場合は、家裁への申立

手続から入る場合もありますが、自筆証書遺言

は遺言者の遺志というのが反映されていますので

その人柄が伝わってきて、興味深いものです。

 

 しかし、法律的な解釈の側面からいうと、中々に

頭を悩ますものもありますが、自筆証書遺言の

中でも極々基本的な体裁の問題も出てきます。

2014年月報司法書士9月号で立命館大学

本山教授の論考で、いくつか裁判例を挙げてい

ましたので、ご紹介を少しだけ。

 

(京都地裁平成16年8月9日)

遺言者A 相続人X(原告)、Y(被告)

・3枚の用紙をホチキス止め

・1枚目に「H4、11、-12日」と記載

・2枚目に「H4、11、12日」と記載

・2枚目にAの署名・押印

・加除変更場所に押印無し

 

 本遺言の内容は、X・Y・Yの子Bの

3名で全財産を分けるとの趣旨で、X

が3枚目に署名・押印がないこと、日付

が明確でないことなどを主張して、本件

遺言の無効確認を求めた。

 本判決では、署名・押印について「必ず

しも1枚ごとになされる必要はない」、日付

について「平成4年11月12日を指すことは

容易に認められる」、加除変更について「民法

968条の方式に従っていないとしても、当該変更

がなかったことになるだけであり、遺言自体が方式

違背になるものではない」などとして、Xの請求を

棄却した。

 

(平成18年8月29日大阪地裁)

遺言者A 相続人 二男X(原告)、長女Y1・二女Y2(被告)

Aの遺言体裁は、以下のものであった

   :

   :

   A ㊞

   平成二千年一月十日書

 

 Xは『平成二千年』という存在しえない日付が記載されており

、作成日の記載がない遺言書と同視すべきであり、無効である

等主張したが、判決では「平成二千年なる年が、暦上は過去に

存在しなかったものであることは明らかであるけれども、その

記載自体から、これが『西暦2000年』あるいは、これに対応

する『平成12年』を表示するものとして記載されたことが明らか

であると認める」のが相当として、Xの請求を棄却した。

 

 本論考ではいくつか自筆証書遺言の体裁にかかわる判例が

紹介されております。自筆証書遺言の方式上の要件は、「全文

自書」「氏名自書」「日付自書」「押印」の4点を挙げておられます。

 

 前段の例は、民法968条2項の論点になっていますが、本山教授も

述べられておられるとおり、通常の一般社会活動における契約内容

の訂正の方式と異なるものであり、遺言者が民法における本方式の

認識があることは稀でしょう。裁判例でも当該要件はかなり緩和され

ている方向に動いているみたいです。

 

 日付の論点については、前段の例では裁判所の判断は社会通念上

妥当と感じる一方、後段の例は感覚的には裁判所の判断も妥当性が

あるように思えますが、本山教授が、『日付を純粋・単純な形式的要件

と解するならば、無効とする余地充分にあると思われる』とされておりま

すが、私も同意見で、自筆証書遺言に限らず遺言にとって【日付】は

重要な要素で、自らの遺言の撤回や変更を後に検討する際にも、問題

になることもよくありますので、厳格に解釈する方が妥当でないかと

考えます。

 

 登記実務から申し上げますと、自筆証書遺言の内容で形式的要件は

充たされているものの、財産の帰属内容が不明確なものは過去の先例

等を調べた上、念のため管轄法務局へ事前に照会することもあります。

 

 作成コストがかからない反面、遺言の効力発生後(死亡後)に問題を

生じさせる可能性を秘めている自筆証書遺言ですが、作成される際は

一度我々にご相談をしていただければと存じます。

 

 

             司法書士法人高山事務所 司法書士梶原貴志